埼玉大学様 ポケトーク for スクール導入事例

〜 言葉の壁と「正解探し」を越え、「個性」を引き出す教育を。 〜

近年、大学の教室はますます多国籍化が進んでいます。埼玉大学には現在、約600名の留学生が在籍しています。同大学の学務部全学教育課によると、正規の留学生は入学時に日本語能力が求められる一方、協定校から半年〜1年滞在する短期の交換留学生の中には「日本語での授業受講がまだ難しい学生もいる」という実態がありました。

日本人学生と同一の教室で学ぶ中、これまでは英語を併用して対応していましたが、対応できる授業が限られることに加え、併用の場合は単純に時間も倍になる、英語の説明が疎かになるといった難点もあり、留学生の理解度にばらつきが生じていました。その解決策として導入したのが、AI同時通訳サービス「ポケトーク for スクール」です。特に絶大な効果を発揮しているのが、小澤基弘名誉教授が担当する美術の授業「Workshop in Drawing」です。この科目は、同大学多文化共修センターが推進する「ソーシャルインパクト創出のための多文化共修キャンパス形成支援事業」の一環として、非言語的な表現であるドローイングを媒介に自己理解と他社理解を深めることを目的として開講されています。

小澤先生の学生たち。言葉の壁を気にすることなく、留学生と日本人学生の間の交流も活発です。
(取材時、PCでポケトークforスクールの翻訳を見ながら、スペイン語↔︎日本語の双方向で交流もしました!)

日本の美術教育の課題と、小澤先生の哲学

小澤名誉教授の授業は、単なる技術指導ではありません。「絵は学ぶものではなく、主体的に描くもの。答えは外(お手本)にあるのではなく、自分の中にある」という教育哲学に基づいています。

小澤先生は、日本では絵をお金を出して買う習慣があまりなく、フリーランスの画家として生活するのが難しい環境にあると指摘します。さらに、日本の学校教育における美術はデッサン偏重、つまり自分自身の内面を表すことよりも、外部の諸々を正しく写し取ったり、外的な基準に自分を合わせるような表現になりがちで、結果として自己表現の機会が失われ「みんな同じ絵になってしまう」と語ります。

「答えは自分の中にある」対話から生まれる真の美術教育

だからこそ、先生の授業では、学生が描いたドローイングをパッと見て、その裏にあるものを瞬時に読み取り、対話を行います。小澤先生は、学生が人の目を意識して描くのではなく、「自分に正直に描くこと」を大事にした表現指導を徹底しています。率直に描かれた絵はどんな絵もいい絵なのです。その良さをまず見つけ出し、心から褒めることで、学生自身の無自覚な才能や特性を引き出していきます。

「僕は国境やナショナリティを意識しない」と語る小澤先生。しかし、その細やかなニュアンスや専門的な抽象概念を、多様な母語を持つ留学生全員に同時に、かつ正確に伝えることは言語の壁がどうしても存在するゆえに、困難でした。

ポケトークが実現した「思考を止めない」リアルタイムコミュニケーション

ここで画期的な役割を果たしたのが「ポケトーク for スクール」です。 授業では、先生がピンマイクを1台、胸元に付けて普段通りお話をします。これにより、先生の発言が、作業指示から、学生の作品への褒め言葉や改善点の指摘、さらには作品からインスピレーションを得て広がる自然な会話までリアルタイムに翻訳されます。学生は各自の手元の端末(スマホなど)で自分の母語を選択して、翻訳された内容を見たり聴いたりできます。これにより、多言語への対応が授業の進行を妨げることなくスムーズに行われるようになりました。

主体性や個性の引き出しを重視する小澤先生のクラスでは、ピンマイクをもう1台、学生が持ち回りで使用しています。これにより、留学生も発言しやすく、日本人学生の発言も留学生に理解されやすくなり、よりインタラクティブで学び多い授業が実現されます。

ちなみに、先生はフランス在住歴もあり、フランス語が達者です。インタビュー中でも、実際に自分の日本語が瞬時に完璧なフランス語などに翻訳される画面を初めて見た小澤先生は「完璧なフランス語だ」「精度が高い」と感嘆の声を上げました(小澤先生は授業ではいちいちポケトークforスクールの画面は確認しておらず、個々の留学生に対しては英語である程度対応されているとのことです。)。ポケトークの翻訳を通して、留学生は自国語で進行中の対話の意味をある程度理解できているので、留学生と日本人学生とのドローイングを通した和気あいあいとした授業になっています。先生の熱意を充分に伝えるためのツールとして、ポケトークforスクールの威力が実証されている証しです。

ピンマイク越しに先生の声がクリアに拾われ、スマホで指定した言語に正確に翻訳されます。
(ピンマイクは市販品でOK)

留学生の躍動と、日本人学生への強烈な刺激

ポケトークの導入は、学生側にも変革をもたらしました。最も効果を実感しているのが、各自が制作した作品を発表する場面です。ポケトークを利用することで、留学生は自分の作品に込めた思いを「母語」で説明できるようになり、思ったままの豊かな表現で発言できるようになりました。

この授業において、言語の壁を越えて大きな存在感を放っているのが留学生たちです。26年度前期の授業にはスペインから建築を学ぶ留学生も参加しており、小澤先生は彼らのドローイングを「抜群にいい。さすがガウディの国だ」と高く評価していました。海外の学生は幼少期からのディベートなどを通じて自己主張のトレーニングをある程度積んでおり、絵においても「自分に正直に、嘘をつかずに自己表現する」ことに長けていることが、この授業からよくわかると小澤先生は言います。

言葉の壁による心理的なハードルが下がり、彼らが母語で「思ったまま」に豊かな感性を発表できるようになったことは、つい正解やお手本を探しがちな日本人学生にとって強烈な刺激となっています。留学生の存在そのものが、日本人学生の自己表現の扉を開く鍵となり、新たな視点や価値観に触れることで多文化共修の質そのものが大きく高まっています。

先生や他の学生の発言を、ポケトークforスクールでリアルタイムに理解。
発言する時は、ポケトーク(翻訳機) も併用。スピーカーで日本語訳を瞬時に全員へお届け。

教育の本質に集中できる環境づくり

「言語の壁に左右されずに学べる環境が整い、留学生にとっての学習機会の質と公平性が向上している」と、学務部全学教育課の担当者は語ります。 留学生の経験値が向上するだけでなく、教員にとっても、複数言語での個別対応という負担が軽減され、教育内容そのもの、すなわち「学生との対話」により集中できる環境が実現しました。

操作が非常にシンプルで、専門的な知識がなくてもすぐに使い始められる「ポケトークforスクール」。埼玉大学の事例は、テクノロジーが単なる言語翻訳を超え、国境や文化の違いを互いの刺激に変え、一人ひとりの可能性を最大限に引き出すための強力なパートナーになり得ることを鮮やかに示しています。

昨年度の「Workshop in Drawing」の授業成果展の様子が本学ホームページに掲載されています。
多文化共修科目“AL2(Workshop in Drawing a)” 授業成果展を開催しました | 埼玉大学