倒れていたのは、会社員のキム・ハリム氏。
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遡ること、3時間前
午前8:00
キムはいつも通り出社し、毎朝のルーティン、自家製のキムチとおにぎり片手に朝ごはんを済ませながら、秒速100打でキーボードを打ちながら仕事を始めた。
キムの仕事は製品の輸出入管理。
会社が最近海外進出をし、大成功しているのはいいが、海外事業部・野堀部長からの電話は鳴り止まない。
主力ターゲットとしている韓国の客先はすべてキムの担当だ。
キムの最近の忙しさは通常の1万倍。
勤続10年の中でも稀に見る韓国との特大案件が舞い降りてきたのだ。
社内で韓国語が話せる唯一の社員であるキムはプロジェクトリーダーを任されていた。
午前10:30
契約締結まで1時間30分。締結には部長の野堀と立ち会う予定だ。
「契約準備に不足はないか、キムくん。」
「はい、すべて整っています。お任せください!」
「話によると、先方のパク部長はかなり厳しい人で、客先にも笑顔を見せないことで有名らしいぞ。息苦しい契約になるかもな。」
「お任せください!その辺りもしっかり用意しています。」
「どういうことだよ、用意してますって。」
「実は向こう側の会社に大学時代の後輩がいて、パク部長のマイブームを聞いておいたんです。パク部長はその時々のマイブームの話をすることで人が変わったかと思うくらい、喋りやすい人になるらしいです。しっかり調査済みなので大丈夫です!」
「そんなことがあるかよ。まあ、頑張ってくれ。」
野堀は自分の部屋に戻り、コーヒーを片手に余裕の笑みを浮かべていた。
”まぁキムに任せておけば、この巨大プロジェクトも安泰だ 今日の祝勝会は焼肉だな!”
と野堀の頭の中は夜の飲み会で頭がいっぱいだった。
すると、大事な契約のわずか1時間前にキムが倒れているのが発見される。
午前11:00
同僚が駆けつけ、声をかけるも体は動かず。。
「何か聞こえるぞ!みんな静かに!」
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「すーーすー」
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「もしかして。。これは。。寝息!?」
実はキムは生後3ヶ月の息子の新米パパだった。
夜中の寝かしつけもあって、毎晩の睡眠時間は30分ほどになっていた。
睡眠欲がピークに達したキムは、ついに廊下で気絶し、寝てしまったのだ。
円満な契約締結には、キムが入手したマイブームの話が鍵となる。どうする野堀。
「見てください!なにか書いてあります!」
倒れたキムの手にはペンで何か書かれている。これはダイイング・メッセージか?
「これがパク部長のマイブームなのか?!この丸棒人間はなんだ、ダンスか? 何がいいたかったんだキム!!画力がなさすぎるぞ!!」
皆が取り囲む中、一人の通行人が近寄ってきた。
何か四角い機械をポケットから取り出し、写真を撮りだした。
「 우유 ー ミルク 」
「牛乳?!」
それを聞いた野堀はひらめいた。
”これはキムが話していたパク部長のマイブームに違いない!!”
「ところで、その機械はなんですか?」
「これが今話題の、夢のAI通訳機ポケトークSですよ。カメラで書かれた文字が何語か判別して翻訳してくれるんです。」
「1時間でいいです、それ貸してください!!」
午後12時
野堀はポケトークを片手に契約の場にいた。
「牛乳がお好きと聞きましたが、日本にはご当地牛乳があるんですよ。栃木はレモン牛乳、大阪は・・・」/p>
牛乳トークにも花が咲き、野堀は無事に契約を締結できた。
ポケトークがあれば85の言語で契約が締結できてしまう。心強い助っ人の誕生だ。