マッチングアプリ詐欺
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「もう独りで過ごすバレンタインなんて嫌だ!!」
ずっとやってみたい気持ちはあったがなかなか手を出せずにいた、
最近は当たり前になってきている、マッチングアプリをダウンロードした。
「これで俺も一人前だ」
あなたの一人前はどんな定義なんだ。
諒眞は独身歴8年の28歳。
勇気が足りなかったのか、意地を張っていたのか、
周りが次々にマッチングアプリで彼女を見つける中、
運命の愛を信じ続け、何もせずにただただ偶然の出会いを待って、
アプリの登録をずっと避けてきた。
そんな彼もそろそろ自分からアクションを起こさねばいけないと強い危機感を感じ始めた。
早速始まったマッチングアプリへの登録
身長 175cm (ほんとは170cm)
体重 64kg (ほんとは69kg)
写真 加工アプリでちょっと美白に、ちょっとシャープにしてみた
職業 上場IT企業・課長(ほんとは平社員)
語学力 TOEIC800点(ほんとは英語苦手、参考書はずっと机の上に置いてある)
「まあ、みんなこんなもんでしょ!」
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各プロフィール項目、本人曰くちょっとだけ内容を盛った諒眞。
ちょっとずつダイエットして、ちょっと良い化粧水を買って、
毎日ちょっとだけでもTOEICの参考書を読んでいけば、ごまかせると思ったのだろう。
とんだ甘い考えであるが、そんな矢先、なんと意外にもすぐにマッチングした!!
「こんな簡単なのか!もっと早く始めれば良かったな~」
しかもお相手は欧米系のブロンド美人!
トントン拍子に話は進み、早速その週末に会うことになった。
が、、、想定以上に早いマッチングでプロフィールとそぐわない内容が多すぎることに焦る諒眞。
身長は厚底のスニーカーをzozoで手に入れ、
体重は今日から夜ご飯抜きにして、
写真はAmazonでメンズコスメNo.1のスキンケアセットを購入。
見た目はなんとかなりそうだが、英語はどうする。。
約束の前日、TOEICの参考書をぱらぱらめくってみたり、大好きな映画鑑賞を字幕なしで観たり、できる限り耳を英語に慣らしたつもりだったが、手遅れ。相手が何を言ってるのか理解できないんじゃ、会話できない。。
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翌日
実家に帰ると、妹・諒子がパソコンの前でニヤニヤしながら座っていた。
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「・・・アンニョンハセヨ~・・・ポゴシッポヨ・・・~」
推しのKpopアイドルのLive配信を見ているようだ。
「ジュンさん、明日もLive配信やってくれるって!嬉しい!!」
「え?!諒子って韓国語わかるのか?!」
「わからないよ、でも今は何でもAIの時代、私はポケトーク同時通訳を使ってるの。知らないの?」
「これだ!」
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マッチング相手との初対面の日。
お互いに簡単な自己紹介を済ませ、趣味の話をし、順調順調。
ここまでは相手もぎこちない日本語ではあったが、なんとか会話が成立していた。
こういう出会いでは鉄板話なのか、徐々に話題は理想の彼氏・彼女の話になった。
最初は日本語で話してくれていたので良かったのだが、段々と彼女の発言に英単語が混じってきた。
やばい。。
戸惑った諒眞は、トイレに行くふりをして席を外した。
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トイレから戻った諒眞は、彼女の求める彼氏像について、話を続けてもらった。
彼女は気分が乗ってきたのか、事前に諒眞のプロフィールを見て英語で話しても良いと思っているのか、ほとんど英語で話しかけてきている。
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「ア、アウトドアな人なんですね、聞けてよかったです!実は僕、小さい頃からゲームとかあんまり得意じゃなくて、外で友達と過ごすことが多くて、、」
と話を続ける諒眞だったが、なんでだろうか。
彼女はやけに耳元を気にしている。髪の毛をなおしているようで、違うようだ。
何度も耳を押し当てている。諒眞の話が面白くなさすぎたか。
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「何か気になる音でも鳴ってる?」
彼女はなんだか気まずそうな顔をした。
「実は、、チートしてたんです。」
「・・ん?チート?・・・チートってなんだ」
彼女の膝元からスマホが出てきた。そして耳からイヤホンを外した。
なんと諒眞と同じ、ポケトーク同時通訳を使っていたのだ。
諒眞もすぐに自分のスマホを出して、お互い笑った。
「実は僕も英語苦手で、ポケトーク同時通訳使ってたんです。」
彼女もそこまで日本語が得意でなかったのか、と安心した諒眞。
お互い同じツールでチートしていることに大笑い。
これは行けるぞ、と意気込む諒眞。
「僕たち、似たもの同士ですね、良かったらお付き合いしませんか?」
彼女は笑いながらこう言った。
「あなたプロフィール嘘だらけですよね?私、嘘つきとは付き合えないんです。」
颯爽と店を出ていく彼女。
・・・
諒眞は英語力は手に入れたものの、新しい彼女を手に入れられなかった。
「ポケトークで、英語勉強しよう。」
こうして諒眞と同時通訳とのお付き合いが始まったのだった。
2024/03/07公開