ポケトークを活用し、子ども、保護者との距離感もぐっと近く。授業や毎日の連絡事項、行事のお手紙作成など、保育の現場で大活躍。

ポケトーク導入事例 神戸市立宮本保育所様 の場合

保育士 榎本聡子さん、神戸市立宮本保育所 所長 左鴻昌子さん
(左から)保育士 榎本聡子さん、神戸市立宮本保育所 所長 左鴻昌子さん
神戸市立宮本保育所
神戸市立宮本保育所

1868年の開港以来、外国文化の玄関口として発展してきた神戸市。外国人居留地の風情を残す北野エリアや、日本三大中華街の一つである南京中華街をはじめ、市内には海外文化にゆかりのあるスポットが多く、国際色豊かな街としても知られています。多くの企業や大学があることから、海外からの転入も増加しており、市内の保育所にもさまざまな国の子どもたちが通っています。市では、保育士と子ども・保護者とのコミュニケーションを円滑にするため、2019年からポケトークの試行導入を決定しました。今回は、神戸市中央区にある「神戸市立宮本保育所」での活用事例をレポートします。

離乳食の献立や各種手続きなど、保育所ならではの言葉の壁

――宮本保育所にはどのぐらいの外国籍児童がおられるのですか?

現在、当保育所には101名が在籍していまして、そのうち7名になります。

現在、当保育所には101名が在籍していまして、そのうち7名になります。日本に働きに来られたというご家族だけでなく、神戸大学や神戸医科大学に通う留学生の方がご利用されているケースもあります。

私は1991年から神戸市で保育士をしていますが、外国籍の子どもは徐々に増えてきています。兵庫区は韓国や中国の子ども、長田区はベトナムの子どもが多い印象ですが、中央区はアジアだけでなくアメリカ、アフリカなど多様な国の子どもがいる点が特徴だと思います。現在担当しているクラスにはアメリカ、中国、ベトナムの子どもが計4名いて、そのうちの2名は日本語がほとんど通じません。

――ポケトーク導入前はどのように対応されていたのでしょう?

子どもに対しては、身振り手振りや絵などを使って最低限の意思疎通をしていました。

子どもに対しては、身振り手振りや絵などを使って最低限の意思疎通をしていました。保護者の方に対しては、主に英語で簡単な会話をしたり、連絡事項を手紙で伝える際は辞書を片手に自分で翻訳したものをお渡していました。

エジプトやタンザニア、エチオピアなど、英語が通じない国籍の方に対しては、日本語がわかるご友人を連れてきていただいて、通訳してもらうということもありました。

――どのようなときに言葉の壁を感じておられましたか?

保育所では家庭で食べさせたことがあるものだけを与えるという決まりがあるのですが、子どもが成長するにつれて食べたことがあるものも徐々に増えていきます。

0歳児や1歳児クラスの離乳食の献立ですね。保育所では家庭で食べさせたことがあるものだけを与えるという決まりがあるのですが、子どもが成長するにつれて食べたことがあるものも徐々に増えていきます。日本語がわかる家庭であれば問題ありませんが、外国籍の方とは日々の情報共有がしにくいので気を遣います。

また、来日して間もない保護者の方が特に困るのが、各種の手続きです。保育料の納付をする銀行での手続きについても、どの銀行が指定行で、最寄りの支店はどこにあるのかといった基本的な説明も難しいんですね。

スマートフォンの翻訳アプリを使ったこともありますが翻訳の精度が低く、また周囲の子どもの声を拾ってしまうこともあって…。保護者の方とお会いするのは子どもの送り迎えのわずかな時間だけなので、何度もやり直している時間的な余裕がなく、だんだん使わなくなってきていました。

スマートフォンの翻訳アプリを使ったこともありますが翻訳の精度が低く、また周囲の子どもの声を拾ってしまうこともあって…。

ポケトークを導入して、保護者に気軽に声をかけられるように。

――ポケトークの存在はご存じでしたか?

はい! 初代のモデルだったのですが、昨年海外旅行に行く前に、家電量販店で見かけて個人的に購入していたんです。

そのポケトークをお借りして、保育所で使ったこともありました。4月の入所式に、ベトナムの子どもをおばあさんが連れてこられたのですが、二人とも日本語ができませんでした。入所時には連絡事項がとても多いのですが、ポケトークを使うことで何とか手続きすることができました。

今年度からは、神戸市から2代目のモデルが支給されるようになりました。このモデルでは、翻訳のスピードと精度がさらに上がっていて、言語を選ぶ操作もとても簡単ですね。文字も大きく表示されるようになって、とても使いやすくなったと思います。

文字も大きく表示されるようになって、とても使いやすくなったと思います。

自分が翻訳しようとしている日本語が正しく認識されているのかも一目で見えやすいので、間違ったまま翻訳されることがない点は良いですね。

――普段、お子さんに対してはどのような場面で活用されていますか?

クラスの中では私が主担任として授業を進行し、副担任の保育士が日本語のわからない児童のそばについて翻訳しています。

クラスの中では私が主担任として授業を進行し、副担任の保育士が日本語のわからない児童のそばについて翻訳しています。子どもには日本語を覚えてもらいたいので、すべてを翻訳するのではなく、一日の流れや生活の中の決まりごと、これから遊ぶゲームのルールなど、重要なポイントに絞って翻訳するようにしています。

特に外国からきた子どもは、日本で初めて経験することに対して不安を感じると思います。

特に外国からきた子どもは、日本で初めて経験することに対して不安を感じると思います。例えば内科検診を行なう際も、ポケトークを使って「これからお医者さんが来ます」「身体を診てもらいます」などと伝えてあげると、安心して表情が柔らかくなります。

――子どもがポケトークを使って話すこともあるのでしょうか?

まだ導入して間もないので、照れているのかあまり使ってくれませんが、それでもたまに話してくれますよ。

まだ導入して間もないので、照れているのかあまり使ってくれませんが、それでもたまに話してくれますよ。

この前、児童を連れてお散歩にいったとき、ベトナムの子どものお母さんに偶然会ったんです。その際にはポケトークを使って、「お母さんは今から勉強(大学)に行くんだよ」と教えてくれました。

――保護者の方とのやりとりには、どのように活用されていますか?

日々の生活や行事に関する連絡が多いですね。例えばプール遊びに必要な持ち物を説明したり、保育参加の内容を伝えたりする際にも役立っています。行事の目的や開催する日時を伝える作業も、ぐっとスムーズになりました。

保護者の方とのやりとりには、どのように活用されていますか?

国によっては時間の決まりに対する感覚が違う方もいるので、「決められた時間内に迎えに来てください」「それ以降は保育所が閉まってしまいます」といったお願いも、対面しながらできるようになったことは大きいと思います。

――特にポケトークがあって良かったと感じられたエピソードはありますか?

ポケトークが支給されたことで、お迎えの際にこちらからお声をかけやすくなりましたね。

保護者の方にはお迎えの際に、子どもがその日、保育所でどのようにすごしていたのか、例えば「今日はお友だちと積み木をして、いつもより根気強く頑張っていましたよ」といったような様子を、なるべく伝えてあげたいと思っています。ポケトークが支給されたことで、お迎えの際にこちらからお声をかけやすくなりましたね。日々の子どもの成長や変化を伝えていくことで、保護者の方との距離感もより近づいていくのではないかと感じています。

日々の子どもの成長や変化を伝えていくことで、保護者の方との距離感もより近づいていくのではないかと感じています。

日々の会話だけでなく、手紙や書類作成にも役立てたい

日々の会話だけでなく、手紙や書類作成にも役立てたい

――これまで珍しい言語は使われましたか?

今年度ではベトナム語ですね。昨年はモンゴルの子どもがいて、今は卒園して小学校に通っています。小学校ではサポート制度があり、半年間ほど通訳できる方が子どもについてくれるそうなのですが、保育所にはそういった制度がないのでポケトークをはじめ、言葉の問題を解決するツールはありがたいです。

一昨年はエチオピアの子どもがいました。英語でのやりとりがメインでしたが、簡単な会話はできていても、情報が正確に伝わっていないこともありました。その当時にポケトークがあれば、もっとコミュニケーションが図れたかもしれないと感じます。

――なにか保育所ならではのポケトークへの改善要望はありますか?

ポケトークで翻訳した文章を、ワープロソフトなどにそのまま送ることができれば助かります。遠足などのお知らせの手紙が、とても作りやすくなると思います。

──ポケトークの翻訳履歴をPCやスマホのブラウザ上で、リアルタイムに見られる「ポケトークセンター」という機能がありますので、ブラウザからコピーしていただくとよいと思います。

それは知らなかったです! 英語だけでなく、いろいろな言葉で手紙が簡単に書けるようになればもっと気軽に手紙が出せるのでぜひ使ってみたいと思います。

現在は普段の連絡や情報共有に使うことが大半ですが、保育参加や運動会、発表会といった行事にも使っていきたいです。行事の内容をわかりやすく伝えることができれば、保護者の不安もなくなりますし、これまで以上に積極的に参加してくれるようになると思います。

現在は普段の連絡や情報共有に使うことが大半ですが、保育参加や運動会、発表会といった行事にも使っていきたいです。

●よく使うフレーズ
「今日は散歩に行きます」
英語:I will go for a walk today
中国語:今天要去散步。

「これから地震の避難訓練をします」
英語:I will do evacuation training of the earthquake from now
中国語:接下来进行地震避难训练。

「食事の前にトイレに行きましょう」
英語:Let’s go to the bathroom before a meal
中国語:吃饭之前去卫生间。

「お医者さんからこの書類をもらってきてください」
英語: Please get this form from the doctor
中国語:请从医生那里拿到这份文件。

「お子さまの家庭でのご様子を見ておいてください」
英語:Please have a look at how your child is at home
中国語:请事先观察室孩子在家庭中的情况。

「今から内科検診をします」
英語:I do medical examination from now on
中国語:现在开始做内科检查。

「決められた時間内にお子さまを迎えに来てください」
英語:Please come and pickup your children within the scheduled time
中国語:请在规定的时间内来接孩子。

音声で入力するポケトークは、保育の現場に即したツール。市内の未就学児が利用する施設への導入も検討中。

導入担当者さまの声

神戸市子ども家庭局 子育て支援部 振興課 運営係長 三原涼太さん
神戸市子ども家庭局 子育て支援部 振興課 運営係長 三原涼太さん

2019年現在、神戸市には約47,000名の外国籍の方が暮らしており、その数は直近の3年間で毎年1,000名前後増えています。特に中央区、兵庫区、長田区の「中央三区」に集中しており、この三区内の保育所は日本語がわからない保護者や子どもたちが数多く利用しています。市では、外国語を話す児童や保護者とのコミュニケーションを円滑にするため、「指さしコミュニケーションシート」という用紙を作成し、市内の保育所に配布しています。「入園面接」「アレルギー」「送り迎え」などさまざまな場面で想定される問答を外国語と和訳文で掲載していますが、保育所では子どもとのやりとりがリアルタイムで行われ、保護者との接点も送り迎えの際の短い時間に限られるため、シート以外によりダイレクトに役立つツールを求めていました。

さまざまな情報を集める中でポケトークに着目したのは、webでの機能紹介や口コミなどを見て、もっとも翻訳の精度が高く使い勝手が良さそうだと考えたからです。また、神戸市はアジアだけでなく世界各国から人が集まっているので、多言語に対応している点もポイントとなりました。幸い、2019年の2月に試行導入して以降、現場から「使いにくい」という声が上がっていません。保育士の方は、子どもに対してはゆっくりと正確な言葉で話されるので、音声入力するという仕様にも向いていたのかもしれませんね。
現在は、市内にある57ヵ所の保育所に対して5台のみの試行導入ですが、今後は本格導入を目指し、台数も増やす方向で検討しています。また、保育所以外にも「子ども家庭センター」や「療育センター」といった子ども向け施設でも役立てられるツールだと思います。
神戸市では「新・神戸っ子すこやかプラン」を策定し、子育てにあたたかい街を目指しています。人口減少が続く社会において、これまで以上に子育てがしやすい町として選んでいただくためにも、言葉の壁の解消を含め、保育現場におけるコミュニケーションをサポートしていきたいと思います。

神戸市子ども家庭局 子育て支援部 振興課 運営係長 三原涼太さん
人口減少が続く社会において、これまで以上に子育てがしやすい町として選んでいただくためにも、言葉の壁の解消を含め、保育現場におけるコミュニケーションをサポートしていきたいと思います。