「言葉の壁」を気にしない、新しい異文化交流

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NPO法人ナタデココ様は、日本の全ての子どもたちに異文化体験を届けることを目標とし、東京都内を中心に子ども向けの「文化交流教室」を展開しています。

代表の加藤頌太さんは現職の外交官でもあり、フランスとジブチにそれぞれ2年間滞在していた他、これまで70カ国以上の国を訪れてきました。

異文化に触れる楽しさを知る「原体験」を多くの子どもたちに届けたいと語る加藤さんですが、その過程で、外国語を習得することと同じくらい大切なことがあると言います。

今回はなぜ、自身の活動にポケトークを取り入れてくださったのかお話を伺いました。

──NPO法人ナタデココの活動内容を教えてください

主に小学生前後(4〜10歳ほど)の子どもを対象とした文化交流教室を開いています。もともと2年ほど前から独自に企画・運営していた文化交流会を、2023年6月にNPO法人化して再スタートしました。

自分たちで企画から運営まで全て行う教室が月に1回ほどと、それ以外にも他団体さんとコラボして文化交流教育プログラムを提供するときもあります。

──もともと外国文化との繋がりが濃かったのですか?

いいえ。私は三重県の小さな島で生まれ育ちまして、幼い頃は外国人を見たことすらありませんでした。

小学2年生の時、地元に住むブラジル人の方が1日だけ地域交流で学校に来てくれて、みんなでブラジルのお菓子を食べたんです。キャラメルをクッキーに溶かしたような甘いもので、不思議といまだにその味を覚えています。「ブラジルっていう国には美味しいお菓子があるんだ」と、子どもながらに漠然とした好印象が根付いたのでしょう。

小学校卒業と同時に父親の転勤で首都圏に引っ越して、初めて多くの外国人と触れ合うようになりました。当時は外交官になるとは夢にも思っていませんでしたが、お菓子を通じて海外文化に対してポジティブな気持ちがあったので、恐怖感はなく、自然と海外に興味を持つようになったんだと思います。

加藤さんが小学生のころ食べた、ココナッツミルクと砂糖で作られるブラジルのお菓子「キンジン」
加藤さんが小学生のころ食べた、ココナッツミルクと砂糖で作られるブラジルのお菓子「キンジン」

──ポケトークの導入背景を教えてください

ポケトークは文字通り「言葉の壁をなくす」AI通訳機ということで、長らく気になっていました。

きっかけの一つは、私が滞在していたジブチの大使館に新しく着任された駐在員の方が、現地にお子さんを連れてきたことです。6歳くらいの子で、ジブチの空港に着いて、ジブチ人を見て「アメリカ人だ!」と言いました。

きっとこの子の中で「日本人ではない≒外国人≒アメリカ人」という方程式が出来上がっているんだと、興味深い発見をしました。そうしたときに改めて、英語圏文化はあくまで世界の一部であることを伝えていくことも非常に大事だと思ったんです。

当然ながら、世界には英語を喋らない、非英語圏の文化がたくさんあります。日本に住んでいる外国人の数は約300万人いて、最近ではコンビニやレストランで非英語圏からの外国人スタッフを見かけることも珍しくありません。ナタデココの文化交流教室にも英語圏出身ではない外国人の方が多く参加してくださるようになりました。

ポケトークは、英語だけでなく世界中の70以上の言語を瞬時に翻訳してくれます。「技術の力で言葉の壁をなくし、1人1人の可能性を広げる」と掲げらているミッションにも非常に共感しますし、多くの文化のうちの一つとして英語を学べたら、子どもたちの心の広がり方が少し変わってくるんじゃないかなと思い導入を決めました。

──文化交流教室ではどのようにポケトークを活用されていますか?

文化交流教室は1回60分で、おおよそ30組のご家族が参加されます。ポケトークは全部で6台ありまして、子ども4〜5人のグループを5つほど作ってグループワークを行うので、各グループに支給しているイメージです。

日本に住んでいる外国人の方を招くときは約半数がアジアの方で、他にも南米、アフリカ、ヨーロッパなどさまざまな地域からのスタッフが参加しています。

文化交流教室の参加者たち
文化交流教室の参加者たち

ナタデココのプログラムは異文化コミュニケーション学を基礎として構築されています。スケジュールは大きく3つに分けていて、最初の15〜20分は「異文化」を意識しなくてもできるパートで、ナタデココでは「Be with Difference」と呼んでいます。

具体的には、ジェンガや輪投げなどの言葉を使わずに打ち解けるためのコンテンツに取り組みます。アフガニスタンの人でも、中国の人でも、どこの国の人だろうと関係なく、同じゲームで盛り上がり笑い合うことが大切です。

次に、一方的な方向で異文化に触れるコンテンツを行います。ナタデココでは、「Touching the Difference」と呼んでおり、具体的には、異文化クイズをやることが多いです。例えば「ケニアの食べ物」や「中国の位置」など、子どもたちにとっては情報を受けとめるだけですが、「さっきジェンガで遊んでたあの子はこんな国から来たんだ」と考えられるように興味関心の扉を探っていきます。

STEP1:一緒にゲームで遊ぼう!(20分程度)

STEP2:お友だちにカードで質問してみよう!(20分程度)

STEP3:お友だちと自由におしゃべりしよう!(20分程度)◀️ポケトーク使用

最後は自由なコミュニケーションの時間です。ここでは双方向の文化交流「Crossing the Difference」を行います。イベントのハイライトとなります。

子どもたちに簡単な英語が書かれているカードを選んでもらって、「名前は何ですか?」「好きな食べ物はなんですか?」「何歳ですか?」などお互いに質問してもらいます。

徐々に打ち解けてきたら、何を聞いてもいいフリータイムです。ポケトークは主にこのタイミングで使っています。

面白いことにフリートークとなると、「フィリピンにはピカチュウいますか?」など微笑ましいやりとりが子ども同士で飛び交うんですよ。あらかじめ用意している英語カードにはなくて、子どもながらに聞きたいことや、知りたいことってもっとあるんですよね。

そうしたときにポケトークがあると、子どもたちが母語で会話できるので、素直な発言がポンっと出てきます。外国語のフィルターも、大人のフィルターも介さず、子どもたち自身の知的好奇心を尊重することができるんです。

ポケトークを使って会話する様子
ポケトークを使って会話する様子

私たちの教室の目的は、子どもたちの英語力を伸ばすことではなく、異文化に興味を持って多様性を受け入れられるようになる「原体験」を作ること。「言葉の壁」を感じて不必要に苦しむ必要はないと思っています。

もちろん外国語習得が大切な要素であることは間違いないですが、それ以上に重要なのは、クラスの全員が完璧に外国語を取得することではなくて、自分と違う文化や人を尊重したり、受け止めたりする力を育むことだと考えています。そのために子どもの「楽しい!」という素直な気持ちを100%優先させるようにしているので、ポケトークは私たちの活動理念にとても合っていると感じています。

──思い出深いエピソードはありますか?

最近では、ミャンマー出身の女性メンバーと仲良くなった5歳の女の子が印象的でした。

初めて文化交流教室にやってきたときはお母さんの後ろに隠れて一切出てきてくれず、私たちスタッフが話しかけても逃げ回るばかりでした。参加者の中にはシャイな子もいれば、泣いて喋れなくなってしまう子もいるのが普通なので、徐々に慣れるのを見守るつもりでした。

ところが1時間のプログラムを終えるころには、ミャンマー人スタッフとその子がとても仲良しになっていたんです。最初は固かった表情も、ニコニコ笑顔になっていて。お母様から後日、文化交流教室が終わって家に帰ってからも、ずっとミャンマーのこと調べてますと連絡をいただきました。「ミャンマーと沖縄はどっちが暑いのかな?」「ミャンマーの人は何食べるんだろう?」など家で話しているらしいんですよ。

──それはまさに「言葉の壁」を超えた体験ですね

そうなんです。私たちは「異文化交流」に重きをおいていますが、これが「外国語コミュニケーション」を目的にしてしまうと、同じ結果にはなっていなかったと思います。

30人くらい初めましての子どもたちが集まって「外国の文化を学ぶために、皆んなで英語を使おう!」って結構ハードル高いじゃないですか。外国語に対する苦手意識が、そのまま異文化に対する苦手意識に繋がってしまうのは望ましくありません。

ですのでポケトークという最新技術で「言葉の壁」を超えられるならできるだけ活用して、本質である異文化との触れ合いを楽しいと思ってもらえたら、子どもたちにとって良い時間になると思っています。

文化交流教室の様子
文化交流教室の様子

──ポケトークの使い方を子どもたちにどう説明しましたか?

ポケトーク自体が非常にシンプルなデザインなので、特に説明は不要でした。

翻訳機にもさまざまありますが、ボタン一個で操作できるので圧倒的に使いやすいと感じています。

──今度どのように異文化体験を広めていきたいですか?

子ども向けの教室を開催しながら私が強く感じているのは、異文化は意識次第でいつでも身近に体験できるということです。

現代の日本社会は外国のモノで溢れています。レストランの種類も、我々が普段使っているケータイやPCなんかも、カフェも、どこへ行ったって世界中のサービスでいっぱいです。つまり私たちの日常はすでに異文化で成り立っていて、呼吸するのと同じくらい無意識に「異文化体験」に揉まれているはずなんです。

学校現場では英語教育に拍車がかかっており、外国語を学んでからでないと異文化交流できないという意見も少なくありません。外国語ももちろん大切なスキルだと思います。

ただ、私たちナタデココは、AI翻訳の技術を適切に活用して、外国語の知識がなくても十分に異文化交流できる子どもたちの可能性を肌で感じてきました。「楽しい」「もっと知りたい」と思えたら大きな第一歩。日常生活の異文化にアンテナを張り、外国語を学んでいく立派な動機付けに繋がるはずです。そんなポジティブな異文化との出会いの場を、これからも多くの子どもたちと共有していきたいです。